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熊本地方裁判所 平成11年(ヨ)145号 決定 1999年12月28日

平成一一年(ヨ)第一四五号事件債権者

安部文彦

同第一四六号事件債権者

葵衛

同第一四七号事件債権者

永田和幸

同第一四八号事件債権者

豊田賢治

同第一四九号事件債権者

三好賢治

同第一五〇号事件債権者

山口幸嗣

右六名代理人弁護士

板井優

寺内大介

吉井秀広

債務者

濱田重工株式会社

右代表者代表取締役

濱田陽平

右代理人弁護士

三浦啓作

奥田邦夫

岩本智弘

杉原知佳

主文

一  債権者らが債務者に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二  債務者は、各債権者に対し、平成一二年一月から本案第一審判決言渡しに至るまで、毎月一五日限り別紙仮払金目録の月払分記載の割合による金員を仮に支払え。

三  債権者らのその余の申立てをいずれも却下する。

四  申立費用は債務者の負担とする。

理由

(申立の趣旨)

各債権者毎に

一  債権者が債務者に対して、労働契約上の権利を有することを仮に定める。

二  債務者は、債権者に対し、別紙仮払金目録の一時金分記載の金員及び、平成一一年五月二一日以降本案裁判の確定に至るまで毎月一五日限り別紙仮払金目録の月払分記載の金員を支払え。

(事案の概要)

本件は、債務者に雇用されていた債権者らが、転勤命令に違背したとして懲戒解雇を受けた事案で、債権者らが右解雇の効力を争い、本案解決に至るまで労働契約上の仮の地位を定めるとともに賃金の仮払いを求めた事案である。

(争点)

一  債権者らと債務者間の労働契約は勤務地限定契約か。

二  勤務地限定契約ではないとして、転勤命令違背が権利の濫用となるか、また、同命令に基づく懲戒解雇が解雇権の濫用にあたるか。

三  勤務地限定契約である場合、本件転勤命令は変更解約告知として有効か。

(当裁判所の判断)

一  当事者間に争いがない事実、並びに本件疎明及び審尋の全趣旨によれば次の各事実が一応認められる。

1  当事者

(一) 債務者は、本店を北九州市戸畑区に置き、主に製鉄原材料の加工事業、銑鉄及び鋼の製造に関する事業を行うほか、各種半導体材料の製造・加工等、多方面の事業部門を持つ会社で、従業員一七〇〇名余りを有し、八幡支店(北九州市)、光支店(山口県光市)、堺支店(大阪府堺市)、君津支店(千葉県君津市)及び大分支店(大分県大分市)を置き、その他産機事業部(北九州市)、オートライフセンター(北九州市)、シリコンウエハー事業部(熊本県菊池郡大津町<以下略>)等がある。熊本工場はシリコンウエハー事業部に属し、平成二年一二月に開設された。顧客である国内外の半導体メーカーが試験用に使用したシリコンウエハーのリサイクルを目的として新品と同様の状態に加工する再生加工を行っている。熊本工場には、管理、生産管理、技術及び製造の各グループがある。熊本工場の従業員は現在総数一八五名(うち技術職社員一六九名)であり、本件転勤を企画した平成一一年二月一日当時は二一九名(うち技術職社員二〇二名)であった。

(二) 平成一一年(ヨ)第一四五号事件債権者安部文彦(以下「債権者安部」という。)は、平成八年七月一日から、同第一四六号事件債権者葵衛(以下「債権者葵」という。)は、平成八年一月八日から、同第一四七号事件債権者永田和幸(以下「債権者永田」という。)は、平成八年四月一日から、同第一四八号事件債権者豊田賢治(以下「債権者豊田」という。)は、平成八年二月一三日から、同第一四九号事件債権者三好賢治(以下「債権者三好」という。)は、平成九年二月一日から、同第一五〇号事件債権者山口幸嗣(以下「債権者山口」という。)は、平成九年二月一日から、それぞれ債務者の熊本工場において製造グループに属し、技術職社員としてシリコンウエハーの再生加工に従事してきた。

2  債権者らと債務者との雇用契約締結の経緯

(一) 債権者安部は平成八年六月、債務者の熊本工場の現地採用面接を受けた。そのときの債務者の担当者は、熊本工場管理グループの小宮賢(以下「小宮」という。)であり、賃金の算出基準・業務内容などの説明がなされた。債権者安部は同年七月一日付けで採用となり、同日より三日間の導入教育を受け、同日一二時四五分から一五時まで熊本工場管理グループの志賀健一(以下「志賀」という。)より就業規則等の説明がなされた。その際、同日付けで採用された社員には就業規則が一部ずつ配布され、全条文を順番に読み上げながら、解説が加えられた。

(二) 債権者葵は平成七年一二月、債務者の熊本工場の現地採用面接に行った。そのときの債務者の担当者は、小宮と奥田係長であり、賃金の算出基準・業務内容などの説明がなされた。債権者葵は平成八年一月八日付けで採用となり、同日より三日間の導入教育を受け、同日午前一〇時から一二時まで小宮より就業規則等の説明がなされた。その際、同日付けで採用された社員には就業規則が一部ずつ配布され、全条文を順番に読み上げながら、解説が加えられた。

(三) 債権者永田は平成七年九月、債務者の熊本工場の現地採用面接に行った。そのときの債務者の担当者は、志賀と奥田係長であり、賃金の算出基準・業務内容などの説明がなされた。債権者永田は平成八年四月一日付けで定期採用となり、これに先立つ平成八年三月一八日より三日間の入社前教育を受け、同月一八日一二時四五分から一五時まで志賀より就業規則等の説明がなされた。その際、同日付けで採用された社員には就業規則が一部ずつ配布され、全条文を順番に読み上げながら、解説が加えられた。また、同年四月一日には新入社員導入研修が行われ、人事課係長の橋本尚直(以下「橋本」という。)より同日一四時三〇分から一五時三〇分まで就業規則について同様の説明がなされた。

(四) 債権者豊田は平成八年一月、債務者の熊本工場の現地採用面接に行った。そのときの債務者の担当者は、志賀であり、賃金の算出基準・業務内容などの説明がなされた。債権者豊田は平成八年二月一三日付けで採用となり、同日より三日間の導入教育を受け、同月一四日一二時四五分から一五時まで志賀より就業規則等の説明がなされた。その際、同日付けで採用された社員には就業規則が一部ずつ配布され、全条文を順番に読み上げながら、解説が加えられた。

(五) 債権者三好は平成九年一月、債務者の熊本工場の現地採用面接を受けた。そのときの債務者の担当者は、小宮であり、賃金の算出基準・業務内容などの説明がなされた。債権者三好は同年二月一日付けで採用となり、同月三日より三日間の導入教育を受け、同月五日午前八時三〇分から一〇時三〇分まで小宮より就業規則等の説明がなされた。その際、同日付けで採用された社員には就業規則が一部ずつ配布され、全条文を順番に読み上げながら、解説が加えられた。

(六) 債権者山口は平成九年一月、債務者の熊本工場の現地採用面接に行った。そのときの債務者の担当者は、小宮であり、賃金の算出基準・業務内容などの説明がなされた。債権者山口は同年二月一日付けで採用となり、同月三日より三日間の導入教育を受け、同月五日午前八時三〇分から一〇時三〇分まで小宮より就業規則の説明がなされた。その際、同日付けで採用された社員には就業規則が一部ずつ配布され、全条文を順番に読み上げながら、解説が加えられた。

(七) なお、債権者らは、右採用面接の際、いずれも債務者担当者より転勤がない旨の説明があり、また、導入教育においても、就業規則中の転勤について説明はなかった旨主張するが、後記のように債務者においては就業規則上転勤条項について明記され、導入教育のカリキユラムも確立されていたこと、熊本工場においても過去に他の営業所との間に移動があったことが窺えることに鑑みると、担当者においてあえて転勤がないなどと明言する根拠も必要も認められず、右債権者らの主張は採用できない。

3  債務者、特に熊本工場の経営状態

(一) 熊本工場における販売量について

債務者の熊本工場におけるシリコンウエハー販売量は、操業開始以来順調に増加してきたが、四九期下期(平成一〇年二月から平成一〇年七月)実績が月平均一五万七五一六枚であったのをピークとして、五〇期上期(平成一〇年八月から平成一一年一月)は四九期下期比一七・二パーセント減の一三万〇四八五枚、五〇期下期(平成一一年二月から同年七月)が同比一二・〇パーセント減の一三万八五五三枚となっていた。

(二) 熊本工場の売上高について

半導体業界の市況は、平成一〇年秋から同一一年三月にかけて落ち込みを見せ、半導体メーカーは、生産工場の閉鎖、新設工場の稼働時期延期、生産ラインの一時帰休等の対策に迫られ、半導体用材料のシリコンウエハーメーカーでも、設備投資の削減が求められた。そのため、シリコンウエハー再生加工の業界に対しても、昨年から、半年毎にユーザーである半導体メーカーから、製品加工単価の引下げ要請が厳しく、熊本工場における製品加工単価指数は、四九期下期を一〇〇とすると、四八期下期(平成九年二月から平成九年七月)一一九・八、四九期上期(平成九年八月から平成一〇年一月)一〇四・五、五〇期上期八一・六、五〇期下期七六・九となった。右販売量の減少及び製品単価の引下げの結果、熊本工場における売上高は、四九期下期を一〇〇とした場合、五〇期上期が六七・六、五〇期下期で六七・八と減少した。

(三) 債務者全体の業績について

債務者の基幹事業部門である鉄鋼事業(全社売り上げの七〇パーセント相当)の経営状況についてみるに、平成九年度までは全国粗鋼生産量は一億トンを超えていたが、その後生産量が激減し、平成一〇年度には、九、〇九八万トン(一一・五パーセント減)となり、鉄鋼業界の予測によると、平成一一年度の全国粗鋼生産量は、八、四〇〇万トン程度(七・七パーセント減)と三〇年前の水準を下回るまで落ち込むと言われている。こうした事業環境の中で、債務者の鉄鋼事業部門の売り上げも五〇期(平成一〇年八月から平成一一年七月)は、四九期(平成九年八月から平成一〇年七月)より減少し、会社全体の売上げとしては、八・九パーセントの減少となっている。

(四) 熊本工場の業績の今後見通し

もっとも、平成一一年春先より半導体需要は好転しており、同年三月以降IC生産数量、半導体製造装置受注高は前年同月比で増加を続けており、同年九月には九州IC生産量も過去最高を記録し、生産額も二三ヶ月ぶりに一〇〇〇億円台に上るなど、市場の拡大とともに、市況の回復傾向が認められる。熊本工場においても、本件解雇後の販売量は、平成一一年一〇月度においては一七万四〇〇〇枚に達している。ただ、一方で、顧客である半導体メーカーからの製品加工単価の引下げ要求のほかにも、メーカーが試験用ウエハーの使用量を減少させる努力をしていることや、現在の需要はいわゆる二〇〇〇年問題対応のための一時的なものである可能性もあり、必ずしも熊本工場の今後の業績が従来のとおり維持できるかは不明である。

4  本件転勤発令以前の要員対策等について

債務者の熊本工場では、工場での販売量の減少、単価引下げによる、売上高の低下、待に平成一〇年一一月から経営に重大な影響が生じる状況を踏まえて、同工場での現地採用の労務職社員の転勤措置に先立ち、中途採用の中止、定期採用計画の見直し、業務請負会社への発注中止、過勤務時間の抑制、雇用調整助成金の受給に伴う臨時休業や、経費削減の努力をした。また、平成一一年一月から、役員の報酬カットを実施してきた。さらに、本件以後、平成一一年九月より早期退職優遇措置を実施したり、課長以上の管理職社員の給与カットなどを行っている。

5  転勤命令の根拠について

(一) 就業規則

債務者は、従業員の転勤について、就業規則第六条で、「会社は業務の都合で社員に転勤、配転、転職および職階の変更を命ずることがある。また、必要により社外勤務をさせることがある。この場合正当な理由なくしてこれを拒否することはできない。」と定めている。

(二) 過去の転勤事例について

債務者では、過去五年間に、平成一〇年度(平成一〇年四月から同一一年三月)が八名、同九年度が一四名、同八年度が三六名、同七年度が三七名、同六年度が二二名、合計一一七名について技術職社員の転勤(部門間異動)が実施されている。同一一年度についても、四月以降六名の異動を行っている。シリコンウエハー事業部熊本工場においても、過去五年間で延べ二四名の異動が行われているが、熊本工場で現地採用されたものが他の支店や営業所に配転された例は本件まではなかった。なお、債務者において各事業所の技術職社員は、各勤務地での現地採用を原則としている。

6  債権者らに対する転勤発令に至る経緯

(一) 転勤措置の方針決定

債務者は、熊本工場の収益悪化を踏まえ、平成一〇年一二月ころ、同工場の余剰人員を慢性的に要員不足の生じている君津支店(鉄鋼事業部門、新日本製鐵株式会社君津製鉄所関連)へ転勤させることにした。熊本工場では、余剰人員の数として、月当たりシリコンウエハーの販売枚数が一三万枚から一四万枚における必要人員は、三交代オペレーター職六六名、常昼及び三交代オペレーター職一六名、検査・ケース洗浄職三二名、生産及び設備管理職四二名、合計一五六名の技術職社員を必要人員と算出し、本件転勤措置を発表した平成一一年二月現在の技術職在籍人員二〇二名との比較から四六名を余剰と判断した。

なお、債務者は、平成一一年四月一日付けの定期採用として、女性四名を採用したが、これは、右定期採用の募集は平成一〇年七月で、内定は同年九月であり、右募集、内定の時期は、債務者が本件転勤措置の検討を始めた同年一二月より以前のことであった。債務者は右四名についても、業績の悪化に伴うやむを得ない措置として、入社を三か月延期し、平成一一年七月一日付けで採用している。

(二) 濱田重工労働組合に対する転勤措置の説明及び同労働組合の了解

債務者は、転勤措置を講じるに当って、濱田重工労働組合の了解を得るために、組合三役及び同組合熊本支部に対して説明を行った。債務者は、平成一一年二月三日、債務者の本社において、人事部から組合三役に対して、今回の措置に至るまでの半導体業界の景気低迷、それに伴う熊本工場の収益悪化、これまで行ってきた要員対策について説明し、事業を継続していくためには、更に踏み込んだ対策を取らざるを得ない状況となっていること、雇用確保を前提とした君津支店への転勤措置が必要であること、併せて君津支店における要員受入が必要である事情についても、説明した。また、債務者の熊本工場長金子毅(以下「金子」という。)は、同月一〇日、工場内で熊本支部の支部長及び中央委員に対し、右と同様の内容に加え、転勤予定者数、発令予定日、人選を行うための面接スケジュール等の具体的事項を説明した。さらに、債務者は、同月一二日、本社において、人事部から組合三役に対し、右と同様の具体的事項を説明し、その後、組合は、債務者の提案する転勤措置を受け入れた。

(三) 転勤内示者の選考過程について

(1) 工場長の全技術職社員に対する平成一一年二月一五、一六日の説明

金子は、前記の日に、同工場の全技術職社員に対し、熊本工場の収益悪化に伴い余剰人員五〇名を君津支店へ転勤させる措置を講じることについての説明を行った。金子は、工場内の勤務シフトを勘案して、一五日一五時、一六日七時、及び同日一二時四五分の三回に分けて説明を行った。金子は、半導体業界の景気低迷、それに伴う熊本工場の収益悪化と、これまで行ってきた要員対策について説明した上で、今後事業継続していくためには、更に踏み込んだ対策を取らざるを得ず、雇用確保を前提とした君津支店への三五名の転勤の必要性について説明した。また、金子は、転勤措置を行うに当ってのスケジュール及び個人面接の目的について説明した。

(2) 転勤対象者の選定基準

金子は、本件転勤命令の人選については、本社人事部の協力を得て、志賀と製造グループの新村(以下「新村」という。)とともに検討し、転勤先の受け入れの問題から、女性が省かれ男性技術職社員一四二名を対象にし、転勤可能な従業員の選定基準として、次の項目を考慮した。

<1> 本人の希望がある者

<2> 家族の理解が得られる者

<3> 鉄部門(類似職場を含む)の経験がある者

<4> 転勤先に関係する免許・資格を有している者

<5> 転勤先で関係する免許・資格の取得を希望している者(本人の自己申告書によって判断する)

<6> 熊本工場における担当可能な工程が少ない者

<7> 熊本工場での能力、適性は低いが、鉄部門での活躍が期待される者(性格等から、むしろ鉄部門の作業が適していると思われる者)

<8> 面接において、転勤を前向きに受け止めていると判断された者

また、転勤不可能な従業員の選定基準として、次の項目を考慮した。

<1> 本人の健康状態から見て転勤ができない者

<2> 両親や妻子の健康状態に問題があり、当該従業員以外に面倒を見る者がいない者(特別な介護を必要とする家族がいる者(本人以外に介護する者がいない場合))

<3> 熊本工場での業務について特殊技能・能力を有し、業務遂行に必要不可欠な者

<4> 高卒入社一年未満の者

<5> その他面接結果により、転勤不可能と判断される者

(3) 同月一七日から同年三月三日の個人面接

債務者は、前記の期間に、全技術職社員二〇二名に対して、志賀と新村を担当者として、個人面接を行った。志賀及び新村は、債権者らを含む全技術職社員との個人面接において、本人及び家族の健康状態、結婚の予定、転勤についての支障等について尋ね、更に転勤に伴う処遇条件の説明をした。その他、本人からの質問や意見を受けた。

なお、その際、債権者らは、次のような対応をした。債権者安部は、家族は、妻と子供が二人で、転勤するなら家族で行くことになると述べ、子供の一人に病気があることも説明した。債権者葵は、父親は病気だが、母親は健康で、兄が二人いて、一人は熊本市に住んでいる、結婚の予定があると述べた。債権者永田は、両親は健康で、自分は高齢の祖母と弟と同居している、結婚の予定はないと述べた。債権者豊田は、両親は健康だが、妻の両親の面倒を見なければならない、義父は橋本病であると述べた。債権者三好は、両親は健康だが、兄は福岡市に、姉はアメリカにいて、将来両親の面倒を見るつもりだし、将来結婚を考えていると述べた。債権者山口は、大阪からいわゆるUターンしてきたこと、両親は農業で健康であり、結婚の予定はないと述べた。

(四) 本件転勤の内示

金子は、個人面接の実施後、その結果も踏まえて、人選基準に従って、三五名を人選した(なお、その三五名の中には、債務者の人選基準では転勤の対象とならないはずの、本人が病気の者、高卒入社一年未満の者が含まれていた。また、債権者安部と同永田は、熊本工場で担当する工程が多く、その転勤の選定基準に該当しない。)。志賀及び新村は、債権者らに対し、平成一一年三月五日夜、熊本工場内で、個別に君津支店への転勤を内示し、再度君津支店の業務内容及び転勤に伴う取扱について説明した。また、同月一七日には、熊本工場の川添課長(以下「川添」という。)、志賀、新村は、債権者らと個別に工場内で面接をし転勤に応ずるよう説得をした。また、川添、志賀、新村は債権者らと同月二四日から二五日にも再々度個別に面談し、同席上において債権者安部以外は転勤を拒否する旨回答した。債権者安部は他の就職口を探しておりその結果如何によるとして回答を留保した。その際、債権者らの一部は、新しく組合(全日本運輸一般労働組合)に加入したことを告げ、その組合と交渉することを求めた。

(五) 債権者ら以外の内示者の動向について

君津支店への転勤を予定していた三五名のうち、債権者ら六名を除く二九名の中で、三名が転勤に応じ、四月一日に赴任した。四名の者については、その後の本人との面接等により転勤できない事情が判明したため、内示を取り消した。二一名については、本人が退職を申入れたため、これを承諾した。一名については、転勤命令拒否により懲戒解雇した。

7  債権者らの全日本運輸一般労働組合への加入と同濱田重工分会の結成

平成一一年三月一九日、熊本県労働組合総連合事務局次長薄田二郎(以下「薄田」という。)が、熊本工場を訪れ、「労働組合加入のお知らせ」を、同月二九日、全日本運輸一般労働組合熊本合同労働組合(以下「合同労組」という。)執行委員長上山義光(以下「上山」という。)、薄田、及び債権者らは、熊本工場を訪れ、「労働組合加入者名のお知らせ」を手渡した。同年四月七日、同工場の従業員九名をもって、運輸一般濱田重工分会が結成された。

(一) 合同労組、濱田重工分会との団体交渉について

(1) 第一回団体交渉

団体交渉は、同年四月一四日の一五時から一六時四五分まで、熊本県菊池郡大津町町民交流施設のオークスプラザ(以下「オークスプラザ」という。)で行われた。債務者側は、本社の岩戸人事部次長(以下「岩戸」という。)、及び橋本人事課長、熊本工場から、金子、美野管理グループ長(以下「美野」という。)、及び志賀が出席した。合同労組側は、上山、薄田、及び債権者らを含む合同労組組合員九名が出席した。債務者は、交渉において合同労組の三月一九日付けの要求書に対して債務者としての回答を行い、転勤について債権者らの個別の事情を再度聞くべく、個別の面接を申し入れたが、合同労組は、組合の切崩しを警戒してこれを拒否した。

(2) 第二回団体交渉

第二回目は、同月二九日の一五時三〇分から一七時まで、オークスプラザで行われた。債務者側、債権者側とも、前回と同様の顔ぶれで、債務者は、交渉において再度、債権者らとの個別の面接を申し入れたが、合同労組は、再びこれを拒否した。債務者は、団交の席で、債権者らが転勤できない理由を尋ねたが、回答はなかつ(ママ)た。

(3) 第三回団体交渉

第三回目は、同年五月一八日の一五時三〇分から一六時四〇分まで、オークスプラザで行われた。債務者側、債権者側とも、前回と同様の顔ぶれで、債務者は、合同労組側の五月一一日付けの要求書に対して回答を行った。合同労組側は、全員五月二〇日付けの転勤命令には従わないこと、同日の辞令交付式にも出席しない旨述べた。また、合同労組側から、転勤命令に従わない場合についての債務者の対応について質問があり、債務者は、事実を確認した上で検討する旨述べ、転勤命令に従わない場合は業務命令違反として懲戒処分も選択肢のひとつとしてありうることを述べた。

(4) 第四回団体交渉

第四回目は、六月二日の一五時三〇分から一七時四五分まで、オークスプラザで行われた。債務者側は、岩戸、橋本、金子、美野及び小宮が出席した。合同労組側は、上山、薄田、県労連の関係者及び分会員七名が出席した。債務者は、五月二五日付け要求書に対し回答を行った。合同労組側から転勤命令の撤回が求められたが、債務者は、方針は変えない旨述べた。

(5) 第五回団体交渉

第五回目は、同年七月五日の一五時三〇分から一六時四五分まで、オークスプラザで行われた。債務者側は、第四回と同様の顔ぶれで、合同労組側は、上山、薄田及び分会員六名が出席した。合同労組側から懲戒解雇の撤回があるかとの質問があったが、債務者は、撤回はしない旨答えた。なお、債務者は、合同労組の六月二二日付けの要求書に対しては、既に六月一八日付けの文書で回答していた。

8  債権者らに対する転勤命令とその拒否に対する懲戒解雇について

債務者は、平成一一年五月二〇日、債権者らに対し君津支店への転勤命令(以下「本件転勤命令」という。)を発した。債務者は、同日八時三〇分から熊本工場内で、債権者らに対する辞令交付式を行う予定であったが、債権者らが出席しなかったため、同日付の内容証明郵便で辞令を郵送した。同月二二日、赴任勧告を債権者らに渡そうとしたが、拒否されたため、同日付けの内容証明郵便で同勧告書を郵送した。

債務者は、債権者らに対する五月二〇日の転勤命令の発令後、五月二七日付けの内容証明郵便により、六月三日に至っても債権者らが転勤命令に応じない場合には、就業規則第六条及び同第五八条に基づき、六月四日付けで債権者らを懲戒解雇とする旨の意思表示をした。

9  本件変更解約告知について

債務者は、債権者らに対し、平成一一年五月二七日付けの内容証明郵便により、仮に債務者と債権者らとの間の労働契約が勤務地限定であるとするならば、債務者は、債権者らの新しい勤務地を債務者君津支店に変更する旨の意思表示を行い、同年六月三日までに債務者の申し入れを承諾しない場合、労働契約を解約する旨の意思表示を併せて行った。

10  債権者らが主張する転勤できない事情について

債権者らは、現在の住み慣れた生活環境が変わることのほか、それぞれに個別的な事情を主張して、転勤が困難であることを訴えている。

(一) 債権者安部は、子供がアレルギー性喘息とアトピー性皮膚炎の治療中であると主張する。もっとも、これを裏付ける資料はなく、また、転勤した場合の子供の症状への影響及び治療への支障については明らかでない。

(二) 債権者葵は、両親の面倒をみることと将来結婚予定であるとする。もっとも、二人の兄のうち一人が熊本市内に居住しているが、同人に両親の面倒をみてもらうことが可能かは明らかではない。

(三) 債権者永田は、七八歳の足の具合の悪い祖母の面倒をみる必要があるとする。もっとも、債権者永田の両親は健在で熊本に居住していることから、両親が祖母の面倒をみることができないのかなど解明できていない点がある。

(四) 債権者豊田は、義父の病気を上(ママ)げているが、義父母と同居している訳でもなく、その症状の程度や健康な義母がいるが、それだけでは無理なのかなど明らかではない点もあり、実父の農業の手伝いをする必要があるとする点もその必要の程度は明らかではない。

(五) 債権者三好は、いずれ両親の面倒をみる必要があるし、結婚の予定もあるとするが、どの程度熊本に居住することが必要かは明らかではない。

(六) 債権者山口は、実家が農家で長男であり、両親の面倒をみる必要があること、父親はアルコール中毒の症状があり、平成一一年三月二〇日には職場で倒れ、救急車で熊本赤十字病院に運ばれたとする。もっとも、右父親の症状や介護の要否については、明らかではない。

11  君津支店における労働条件

君津支店は、昭和四三年に開設され、鉄鋼事業を行う生産部に四つの生産課があり、鉄鋼設備のメンテナンスやエンジニアリング事業を行う工事部に三つの課、他にスタッフ部門として、安全衛生課、業務課、購買課、技術課、管理課がある。鉄鋼事業については、製銑、製鋼部門を中心とするものである。君津支店においては毎年三〇名の定期採用を行った上、月平均二名強の中途採用を行っているが、給与が他社に比べて高いとはいえない上、仕事がきついので、生産現場の在籍数は増加せず、慢性的な要員不足が生じており、業務請負会社への発注により約七〇名分の要員に匹敵する業務外注により不足を補っている。

君津支店における労働条件については、労働時間は、常昼勤務者、交代勤務者毎に全社同一であり、給与については、転勤によって現行の支給額に変更はなく、地域手当を支給することとされている。また、社宅や社員寮も完備されている。

二  争点一について

前記一の各疎明事実を前提にして債権者らと債務者間の労働契約が、勤務地を熊本工場に限定した勤務地限定契約であるか否かについて検討すると、前記のように、債権者らの採用にあたって特に勤務地限定の約束が明示的になされたと認めるに足る的確な疎明はなく、かえって債務者の就業規則第六条には、「会社は業務の都合で社員に転勤、配転、転職および職階の変更を命ずることがある。また、必要により社外勤務をさせることがある。この場合正当な理由なくしてこれを拒否することはできない。」と明記されていること、債務者では熊本工場のみならず他の事業所においても技術職社員については現地採用を原則としていることが一応認められるが、過去五年間に合計一一七名について技術職社員の転勤(部門間異動)が実施されていること、熊本工場においても、同工場は他の事業所と業務内容が異なるものの他の事業所との間で過去五年間で延べ二四名の転勤が行われており、熊本工場における労務職社員の業務が他の事業所では勤務できないほど特殊なものとは認められないこと、企業内労働組合も本件転勤措置についてはこれを了承していたこと等から考えると、債務者の熊本工場の労務職として現地採用になった者についてだけ、労働契約上勤務地限定の合意が成立していたとは認めがたい。

この点に関し、債権者らは、熊本工場において、過去熊本で現地採用された者が他の支店や営業所に転勤された例は本件までになかったことなどから、慣習の成立を指摘するが、前記のとおり単に熊本工場でのシリコンウエハー再生事業が順調に発展してきたため、その必要がなかっただけのことであって、特に熊本工場の現地採用者だけを他の事業所より優遇すべき事情も認められないから、右転勤実績をもって債務者の人事権に法的拘束力を生じるような慣習が成立していたと一応認めるには疎明が足りないというほかない。また、債権者らは、本件転勤命令については三五名中三名しかこれに従わなかったことからも、熊本工場における勤務地限定契約であったことが推認されるとするが、転勤命令に従うか否かはその転勤命令の内容如何によるところが大きく、結果として本件転勤に応じなかった者が多かったからといって、一律に勤務地限定契約があったと推認できるものではない上、前記債務者の会社全般における人事管理の状況や全業内組合の対応等を合わせ考慮すると、右転勤に従わなかった者が多かった事実から勤務地限定合意の存在を推認することはできない。

三  争点二について

1  前記二のように本件債権者、債務者間の労働契約が勤務地限定契約ではないとすると、債権者らは、債務者の転勤命令に対しては原則としてこれに従うべき義務あ(ママ)り(就業規則第六条)、これに応じないことは業務上の指揮命令に従わないとして懲戒事由(就業規則第五八条(4))にあたる。

もっとも、転勤命令についても、それが権利の濫用にわたることは許されないし、もしこれが濫用とされる場合には、労働者に従うべき義務はなく、転勤命令を拒否したからといって業務命令に違反することにはならないし、業務命令違反を理由とする懲戒解雇は無効である。

この点に関し、債権者らは、本件転勤命令は客観的にみて労働者がこれに応じることがほとんど考えられず、これに応じなければ任意退職せざるを得ない内容の転勤命令であり、実質において整理解雇における解雇回避措置としてなされた退職勧奨という側面が強く、本件転勤命令拒否を理由とする解雇の効力を検討するにあたっては、整理解雇の法理に照らして判断すべきであるとする。

確かに、結果としてほとんど転勤には応じず、むしろ、大半が任意退職の道を選択していることからは、債権者らの主張にも一理はある。しかしながら、前記のように、本件の転勤については、君津支店においては、慢性的な要員不足があり、債務者においてもすぐにやめない人員を欲しており、業務内容の変更はあるものの、その他の労働条件については従来どおりとするなど被用者の雇用継続に配慮した措置と考えられる面もあることから、債権者らの主張するように本件転勤命令が客観的にみて労働者がこれに応じることがほとんど考えられず、これに応じなければ任意退職せざるを得ない内容の転勤命令であったとまでは認めがたい。そして、本件においては、債権者らには労働契約上債務者の転勤命令に応ずべき義務があることが予め就業規則に規定され、これに違背している点で、被用者の側に何ら責められるべき事情がないにもかかわらず、使用者側の経営苦境克服という一方的事情により行う整理解雇と同視することにはそもそも疑問がある。労働契約上、転勤義務が規定されている場合には、企業には合理的経営、競争力強化を図る見地から、人事異動について柔軟な措置が認められるべきであり、転勤命令違背につきもっぱら経営危機を前提とした整理解雇法理をもって対応することは、右柔軟な対応を阻害することにもなり、妥当ではない。

もっとも、本件の場合には転勤命令自体が、熊本工場での余剰人員と君津支店での慢性的要員不足の解消というもっぱら企業側の都合からなされるものであり、その対象が現地採用の労務職社員であることから、債務者の転勤命令の権限も無制限に行使できるものではなく、合理的な制限に服することは当然であり、転勤の業務上の必要性の程度とその転勤により債権者らが被る不利益とを比較衝(ママ)量して総合的に命令の有効性について判断すべきである。

したがって、本件解雇が有効と認められるためには、その前提として、本件転勤命令が有効である必要があり、その要件としては、<1>転勤の必要性(余剰人員整理の必要性。ただし、経営悪化で経営が困難であるという事情までは必要でなく、合理的経営、競争力強化という見地からのものでもよいと考えられる。)、<2>人選の合理性が認められること、<3>右必要性が本件転勤命令による労働者の不利益を上回ることが必要であり、さらに<4>右転勤命令の発令手続が適正に行われたことも必要であると解される。

2  本件転勤命令の適否について

(一) <1>転勤の必要性

半導体業界の市況は、平成一〇年秋から同一一年三月にかけて落ち込みを見せ、債務者の熊本工場におけるシリコンウエハー販売量は、五〇期上期から過去最高水準であった四九期下期に比べ月平均二万枚あまり減少した状況が続いていた上、半導体メーカーからの製品加工単価の引下げの要請が厳しく、加工単価も引き下げざるを得ずコスト削減の必要に迫られていたことや、本件転勤の方針を打ち出した平成一一年二月の時点においては、半導体市況の回復の兆候も目途も立っていなかったことを考えると、右販売量等の減少に即応する形で、熊本工場の余剰人員を削減して、外部委託で要員不足をまかなっていた君津支店へ右余剰人員を転勤させることにした経営判断はそれ自体一応合理的と認められる。ただ、その後の販売量の増加もあり、これが一時的なものかどうかは明らかではないが、場合によれば、前記の経営判断が誤っていた可能性もあり、この点も考慮に入れる必要がある。

(二) <2>人選の合理性

本件転勤命令の人選については、債務者は、転勤先の受け入れの問題から、女性が省かれ男性技術職社員一四二名を対象にして行われ、うち熊本工場運営に必要不可欠なものを除き、前記の基準に従って、転勤希望者、鉄鋼事業部門で活躍が期待できる者、面接結果等から三五名を人選したというが、例えば債務者自体、転勤させない従業員の要件に該当する二名の社員を転勤の対象にしていることを認めているし、債権者らについても、部分的には転勤基準に該当しない者もあり、労務職社員の全体について比較検討しなければ、本当に債権者らが転勤対象者とされたことが適正であったかは、明らかではない。

(三) <3>右必要性が転勤命令による労働者の不利益を上回ること

債権者側は、全体として、住み慣れた環境からいわば全く見ず知らずの君津市に転居しなければならないことを一番重視し(現地採用であった労務職社員にしてみれば、現地で勤務できることを期待していたであろうし、慣れ親しんだ居住、職場、対人関係等の環境が一変することへの心理的、経済的負担も大きく、しかも、帰任の可能性はほとんどない。)、また、業務内容も熊本工場とは全く異なることから、それへの適応にも不安があるものと考えられる。さらに、個別的には、債権者安部は、子供のアレルギー性喘息とアトピー性皮膚炎の治療を、債権者葵は、両親の面倒をみることや将来結婚予定、債権者永田は、足の具合の悪い祖母の面倒をみる必要があること、債権者豊田は、義父の面倒をみ、実父の農業の手伝いをする必要があること、債権者三好は、両親の面倒をみる必要があること、債権者山口は、実家が農家で長男であり、両親の面倒をみる必要があり、父親がアルコール中毒の症状があることなどをそれぞれ主張する。これらは、本来転勤を命ずる上で、債務者が当然考慮しなければならない事情かどうか、また、考慮するとしてその程度の問題があり、各債権者の個別事情については、その必要性や転勤に伴う支障の程度について、必ずしも未だ十分な疎明がなされているとは言い難いが、実際に転勤命令を受けた三五名中これに応じたのが三名に過ぎないことは、本件転勤命令が妥当であったか、疑問の余地はある。

(四) <4>右転勤命令の手続が適正に行われたこと

本件転勤命令に至る経過において、債権者らが合同労組に加入して、債務者と団体交渉をしたことは、前記のとおりであるが、双方が自らの主張を繰り返すだけで、議論は平行線のままであって、既に債務者の転勤方針に基づいて事態は進展し、自主退職や転勤者への転勤発令があった中では選択肢は限定限られていたとは考えられるが、もう少し工夫の余地がなかったかとも考えられ、必ずしも、十分な交渉がなされたとは言い難い面もある。

四  被保全権利

以上のとおりであるから、債権者らの反対疎明は十分ではないものの、債務者のした本件懲戒解雇の前提となる本件転勤命令についてはその有効性に疑問の点があり、必ずしもその点について疎明があるといえず、その結果、右転勤命令に違反したことを理由とする本件懲戒解雇も適法であるという十分な疎明がないことになる。本来、本件仮処分は、いわゆる満足的仮処分であって、より証明に近い高度の疎明が要求されるべきであり、双方により詳細な疎明を要求するのが審理の常道ではあるが、本件のような労働仮処分でそれを要求することは、審理が長期化し、経済的負担に耐えられない債権者側にいわば不戦敗を強いる結果ともなるので、あえてこの段階で判断することにすると、本件懲戒解雇が有効でない以上、債権者らと債務者との間には、現に雇用契約が存続しており、債権者らは労働契約上の権利を有し、本件懲戒解雇がなされた平成一一年五月二〇日以降の賃金の支払を受ける権利を有するというべきである。

五  保全の必要性

疎明及び審尋の全趣旨によれば、債権者ら六名はいずれも、主として債務者から支払を受ける賃金によって生計を立ててきたことが窺え、本案訴訟において第一審判決が言い渡されるまで右賃金の支払いがなければ、その生活に困窮し、著しい損害を被るおそれがあると推認できる。もっとも、本件解雇以後、平成一一年一〇月までは失業手当を受給しており、現在に至るまで、現に生計を維持しており、右生計を維持することにつき借財等の特段の事情が存したことは窺えないから、早期に一応の判断をするという本件仮処分の性質上、仮払は必要最小限に留めるべきでもあるので、過去の賃金分については仮払いを認めるべき保全の必要性を認めない。

六  結論

よって、本件申立ては、主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し、その余の申立は理由がないので、これを却下することとし、事案の性質に鑑み、債権者らに担保を立てさせないで、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 有吉一郎 裁判官 伊藤由紀子 裁判官 内田貴文)

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